山真農園 まーるいかんぱにー 代表 山本真佐人さん 留似さん no.203
イベントで顔の見える対面販売。ジャムなど加工品も好評
富田林市西板持、石川のほど近くの畑でたなびくのは「ブルーベリー」と書かれた紫色ののぼり。この畑で約10年前からブルーベリー栽培に取り組んでいるのは、山本真佐人さんと留似さんのご夫婦だ。「毎年心待ちにしてくさだる方も増えてきて、私たちもお客さんに出会えるこの時期がとても楽しみなんです」と爽やかな笑顔を見せる。
山本家は代々、この西板持で大阪ナスやキュウリを生産する農家で、真佐人さんも現在、ナスやキュウリ、そして富田林特産の海老芋などを育てている。とりわけ4月から6月は、収穫・出荷で睡眠時間も削られる多忙な時期だ。「ですが、僕は子どものころに農業を継ぎたいと思ったことはなかったんです。日々、田んぼや畑で忙しく働く家族の姿を見て、仕事の厳しさは感じても、楽しそうには見えなくて……」。
そんな真佐人さんは、2002年、20歳で農業修業のためにアメリカへ。各地を転々とするなかで出会ったものの一つがブルーベリーだ。「知人が栽培をしていて、食べさせてもらったらすごく甘くて美味しくて。フルーツは苦手だったんですが、こんなブルーベリーなら食べたい、作りたいって心から感動したんです」。そしてその後、アメリカではさらに大きな出会いが待っていた。のちに妻となる留似さんだ。「私は英語やアロマセラピーなどを学ぶために留学していたのですが、お互いに大阪出身で共通の知り合いがいることがわかるなど、本当に奇遇な縁でした」
そうして、ともに帰国後の07年に結婚。 〝農家の嫁〟となり、富田林での暮らしが始まった留似さんは、「右も左もわからなくて、最初はとまどいの連続でした」と振り返る。しかし、家業を手伝い、日々新鮮な野菜を味わうなかで、農業の魅力も見えてきた。「ふたりの名前を合わせた〝まーるいかんぱにー〟という名の屋号をつけて、お野菜をマルシェやイベントで販売するなど、新しいことにチャレンジしてみようとなりました」
それまではナスやキュウリを市場へ納めて終わりだったというが、イベントに出始めたことでお客さんの声が直接届くようになる。「美味しいという声やこんなふうに料理をしたという報告など、実際に食べてくださる方の顔が見え始めたことは、それまでにない励みになりました」と二人は声を揃える。
また、イベント参加と同様、新しく取り組み始めたのがアメリカで感動したブルーベリー栽培だ。「最初は2本の木からのスタートでした。家族や周りの人からは、〝大切な田畑に木を植えるなんてとんでもない〟と大反対されましたね(笑)」と真佐人さん。ナスとキュウリの栽培に手を抜かないことを条件に、畑の使用をなんとか認めてもらったという。当時は大阪でブルーベリーを栽培する農家はほぼなく、奈良や和歌山まで助言をもらいにいくこともあった。「20品種のブルーベリーを試し、ここ大阪・富田林の土壌や気候に合う品種を選び、いま14品種を育てています。最初は何度も枯らしてしまいましたし、せっかく実がついたと思ったら台風が来てすべて吹き飛ばされてしまったこともありました。水の管理も大変で、お金がないので自分たちで灌漑設備を整えたんです。ようやく安定してきたと思ったら、去年はミツバチが姿を現してくれなくて受粉が難しかったり、いろいろなことがあります(笑)」
農作物以外でまーるいかんぱにーの人気商品の一つは、「ブルーベリージャム」だ。作った作物を加工する「六次産業化」のブームが訪れる前のこと、留似さんの出産を機に、子育てをしながらどう家業にかかわるかを模索する中で生まれた商品でもある。「加工なら家でできるので、子育てとの両立も可能。夫が、畑へ出にくくなった私の居場所を作ってくれたことに感謝しています。これからも勉強を重ねて、喜ばれる商品を提案していきたいですね」
夏休みはブルーベリー狩りへ! 畑横の店舗でジュースやスイーツも
現在、ブルーベリーの9割をイベントや畑脇の店舗で販売し、1割を地域のスイーツ店やパン店などに卸す。「夏に旬を迎えるブルーベリーを楽しみに、毎年お越しくださるお客さまがいて、近況報告をし合うのも楽しみなんです」と留似さん。16年からは夏休み期間に合わせて「ブルーベリー狩り」もスタートさせ、ファミリーやグループで賑わいを見せている。「店舗では、去年まではジュースしか出せていなかったのですが、今年はかき氷やスイーツなどもお出しできたらと思っています。石川のサイクリングロードも近いので、サイクリングの休憩に気軽に立ち寄ってもらえたらうれしいですね」
ブルーベリー畑は少しずつ広がり、その木は現在約300本にまで数を増やした。「勉強すればするほど面白いですし、10年後には3000本にまで増やしていたいですね。今では、南河内でブルーベリーを栽培したいという若い農家さんが訪ねてきてくれることも増えました。いつか、ここ富田林が河内ブルーベリーの産地として確立できたらいいなと思います」
ある日、8歳になる長男が、図書館からブルーベリーの絵が描かれている絵本を借りてきたという。そして、こう言った。「いつかお父さんみたいにブルーベリーを作りたい」——。その言葉に驚いた真佐人さんだが、じわじわと喜びがこみあげてきたという。「僕が子どもの頃に感じていた大変で厳しいという農業のイメージではなく、楽しく仕事をしている姿を見せられているんだなと嬉しくなりました。新しい農業のかたちをこれからも探っていきたいと思います」。留似さんは、「お客さんやパティシエの方、イベントや情報誌の方……ブルーベリーがいろいろな人との出会いを生み、輪を広げてくれました。みなさんのお声を聞け、お顔を見ることができ、それが私たちの励みになっています」
甘い香りを漂わせる河内ブルーベリーは、多くの人とのつながりを生みながら、ここ富田林で今年の夏も豊かな実をつける。
(取材・文 松岡理絵)
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