Total body care Sorriso あまほり 院長 天堀恵太さん n.211
■症状だけを診るのではなく患者さんの人生を見る
車から降りる際に最初に出すのは右足か左足か、カバンを掛けるのは右肩か左肩か――。何気ない日常の動作の一つひとつを見逃さず、そこから見え隠れする身体の状態を分析するのが得意だという、治療院「Total body care Sorriso あまほり」院長の天堀恵太さん。治療院を訪れた患者さんがどちらの手で入り口のドアを開け、どちらの足からどんな足音を立てて入ってきたか。そういったところからも、患者さんの状態を推測して治療に活かしているという。
そんな天堀さんは穏やかな語り口で落ち着いた雰囲気を漂わせながらも、なんとまだ29歳。しかしすでに幅広い年齢層の患者さんたちから信頼され、4年、5年という長いお付き合いの患者さんも数多い。
「10代の頃は、たとえば野球のスコアラーのような、スポーツの世界で分析を専門にする仕事に就きたいと思っていました。打率や成績を覚えるのもとても得意でした」
しかし、スポーツの専門学部がある大学に不合格になったことから、父親が従事していた柔道整復師の道へ進むことを決めた。「子どもの頃から、昼夜なく急患に対応する父の姿を見てカッコいいなと思っていたんです。とはいえ、同じ仕事をしたいとは考えていなかったんですけどね」
小中学生の時には空手で汗を流し、高校時代には柔道部で活躍していた天堀さん。高校3年生になりいよいよ引退試合を迎えるというちょうど1ヵ月前に、肘を怪我してしまう。「怪我を押して出場したのですが、大将なのにベストな状態で出られなかったことで仲間に申し訳ないという気持ちになりましたし、自分自身でもとても悔しかった。その経験も柔道整復師という仕事への関心につながっていきました」
19歳になると柔道整復専門学校で学びながら、実際に整骨院でも働き始めた。現場では、脱臼や骨折など施術により改善する人もいる一方で、慢性的に痛みや不調に悩む患者さんたちも多く目にした。「さらに技術を身につける必要性を感じて鍼灸の勉強も始めたんです。そしてそこで、人生の転機となる人と出会いました」。ある日、その師匠から「四国のお寺に行かないか?」と誘われた。そうして訪れたお寺で出会ったのは、末期がんの患者や治療法がない難病をかかえる人など、現在の医学では救うのが難しい人たちだった。
「そういった状態の方々が最後の最後に救いを求めて大勢来られていたお寺でした。無力さを感じながらも、時間を見つけてはそのお寺へ4年間通い続けました。そこへ行く前日の夜は手が震え、眠れなくなるほどでした。救うことができないのに、私が行ってもいいものかと」
そんな時、ある医師をテレビで目にし、その医師が話していたことが胸に響いた。その人は、1日に21時間も手術をすることがあるという著名な医師。「患者さんの症状だけではなく、〝人生〟を見るのだ、という話をされていて、とても感動したんです。それから私も、患者さんの人生をお聞きし、人生を応援させていただこうと考えるようになりました」
さらに、そんなタイミングで「開業してみては?」と師匠に背中を押され、この河内長野に整骨院を開業したのが2013年。24歳の時だった。
できることを見つけ出し、自己肯定感を持ってもらう。
最初の患者さんは、治療院の近所に住むおばあちゃん。「きっちりと治療をしたことでその方がお知り合いに広めてくださり、口コミのようなかたちで多くの方が来てくださるようになりました」
開院当初は腰の痛みなどを中心に診ていたが、いつしか、坐骨神経痛、脊柱菅狭窄症、股関節・膝関節の変形など、歩行困難な人が多く来院するようになった。「とりわけ、動けなくなる、歩けなくなる、というのは人間の尊厳にかかわること。それなのに大きな病院や整骨院でもしっかりとフォローできていないんです」
初来院時は検査とカウンセリングでみっちり約30分。以降も、施術者や受付担当など、全スタッフが一人の患者さんについての情報を共有し、全スタッフでかかわっていくことをモットーにしている。
治療を施すことで症状が改善することがもちろんベストではあるものの、たとえ改善が難しい状態ではあっても「意識」が変わることを目指すと天堀さんは言う。「大きな病院は、治る・治らないという視点で症状を診ます。たとえ改善が難しい場合であっても、治らないよ、もう歩けませんよ、杖が欠かせませんよ、とだけ言われるのはつらいですよね。私は、患者さんの気持ちが前向きになれるように、『これならできるようになる』『ここは維持できる』という部分を見つけ出したい。できないことを突きつけるのではなく、できることをフォーカスし、ご自身を肯定できるようになっていただき、日々の暮らしや人生を『佳い』ものにしていただきたいんです」
これまでに印象的だった患者さんとのエピソードをお聞きすると「それは答えられないですね……。すべての人が印象的ですから」。そして、「でもあえて言うなら治った人より、治せなかった人でしょうか」と続けた天堀さん。
この「治す」という言葉について、それが何を意味するのかも定義付けしているという。「痛みを取る、痺れを取る、というのも〝治す〟ということかもしれませんが、それよりも、かかわった人の人生を『佳い人生』にすることが治療だと考えているんです」
昨年、大病を患う父に「何かしたいことは?」と聞くと、「仕事をしたい」と返ってきたという。「旅行に行きたいとかご馳走が食べたいという返事を想定していたので驚きました。そして、人生の終わりに近づいても、人それぞれ大事に思うことは異なるのだと気付かされました。その人にとっての大切なことを実現できるのが『佳い人生』なんですよね」
今後、自身と同じように患者さんの人生とかかわり、一人ひとりの尊厳を大切にしながら治療できる人を各地に増やしていくことも目標の一つだという天堀さん。講演やコンサルタント依頼も増えてきたという。一人ひとりにとっての「佳い人生」を応援する施術者が南河内に増えていくとしたら、こんなに心強いことはない。
(取材・文 松岡理絵)
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