祝言屋 代表 谷口隼人さん no.215
伝統的な儀式を再現。BGMは尺八やお琴の生演奏
いま、〝結婚式〟のかたちもさまざまだ。由緒ある神社での神前式から海外リゾートでのチャペル挙式、レストランや一軒家でのカジュアルなパーティまで、それぞれのカップルが思い思いのスタイルで、〝結婚〟の日を迎えている。
そんななか、「昔ながらの日本の結婚式専門」というコンセプトを掲げて結婚式のお手伝いをしているのが河内長野市の「祝言屋」だ。
「祝言とは、現代の人前式にあたる日本の伝統的な無宗教の挙式。神様に誓うのではなく両親や家族、親族に感謝を伝える結婚式のかたちです。形骸化した挙式ではなく、儀式としての祝言を行いたいという方々のお手伝いをさせていただいています」
代表の谷口隼人さんが、そんな「祝言屋」を立ち上げて6年目。少しずつその名が知られ始めると、「日本の伝統的な結婚式」という祝言屋のコンセプトに共感したカップルやその親世代からの問い合わせが相次ぐようになった。これまでにすでに100組以上の結婚式をサポートしてきたという。
古式ゆかしい祝言。祝言屋では、どんな場所で開催しているのだろうか。「会場は昔ながらの自宅婚のほか、祝言という伝統的な儀式にふさわしい会場をあらかじめこちらでも探し、提携もしています」と谷口さん。たとえば、旅館や料亭、古民家など、伝統的な雰囲気を感じられる空間だ。とりわけ、ここ南河内で過去に多くの新郎新婦が利用してきたのは、河内長野市の「旅館 南天苑」。谷口さんは、「近代日本の名建築家・辰野金吾が設計し、国の登録文化財にも指定されている建物は本当に素晴らしいんです。厳かな祝言を行うのにもふさわしく、利用された方の満足度も非常に高いですね。祝言後の会食や、その後の宿泊にも丁寧に対応していただけ、ご家族、ご親戚の方からも喜んでいただいています」
挙式は二人の希望を取り入れながら行われるが、和装の新婦が母親とともに、新郎や親族が着座する会場に入場し、開式の辞、指輪交換、夫婦固めの杯、親族固めの杯、誓いの言葉、両家挨拶、新郎結びの挨拶、お開きという流れが基本となる。「そこにご親族やご友人の祝辞が入る場合もありますし、人前式は基本的にどのような内容を盛り込んでも構いませんので、細かな部分はお二人のご希望に沿って一緒に決めていきます」
また、挙式中に流れるのは、尺八やお琴の演奏など、祝言にふさわしい和の楽器の生演奏。式が終わると会食や、和の空間や庭園などで写真撮影を行う場合が多いという。「出席者の方々からも、思いの伝わるよい挙式だったというお声をよくいただきます。また、新郎様が泣いていらっしゃったり、ご親族が涙を拭っていらっしゃったりする光景が多いのもこの挙式の特徴かもしれません」
今、国際結婚をするカップルは増えているが、祝言屋での挙式を選ぶカップルも、新郎新婦のどちらかが外国人というケースが増えているそうだ。「先日も新郎がオーストラリア人や米国人というカップルの祝言をお手伝いさせていただきました。伝統的な和のスタイルや厳かな儀式という点に意義を感じてくださり、ぜひこのスタイルで結婚式をしたいというご希望でした」
谷口さん自身、英語を話せるので外国人のお客さんとも意思疎通はスムーズだそうだ。また、「南天苑」にも英語を話すスタッフは多いため、国際結婚カップルのサポートも安心して任せられるという。
涙を流す新郎も多数。出席者にも温かな思いが伝わる
谷口さんは高校卒業後、ニュージランドに留学。帰国後、語学を活かせる仕事に就きたいと、ホテルで働こうと決めた。最初に勤めたのは大阪にある高級ホテル。フロントでホテルマンとして働き始めた。その後、結婚式の担当へと配属されたことで、谷口さんの人生は大きく変わる。「ホテルでの結婚式にはもちろん多くの素晴らしい点があります。でも、ホテルでは分業が進んでいる分、お二人の結婚式の最初から最後までかかわらせていただくということが難しかったんですね。それに、時代とともに、表面的なセレモニーで終わってしまっているという点も少しずつ気になり始めました。僕はやはり担当者として最初から最後までお手伝いをしたいという希望がありましたし、儀式という点にもっと重点を置いた結婚式を提供したいという思いが強くなっていったんです」
そうして、2013年に独立して開業したのが、この「祝言屋」だった。「自分にしかできないことはなんだろうかと考えた末にたどりついたのが、このスタイルでした。同僚たちからは『絶対に流行らないからやめておけ』と言われましたね(笑)。でも僕は、大勢の方を対象にするのではなく、少数ではあってもこういった結婚式を求めている方に届けばいいと思っていたので、迷いなくチャレンジすることにしました」
そして今、「結婚式を考えています」という問い合わせを受けるところから挙式当日までを、谷口さんがすべて寄り添う。当然、一組一組への思い入れはとても強くなるという。
「ありがたいことに挙式後も、子どもが生まれた、引っ越しましたなど、節目節目にご連絡をくださる方がたくさんいらっしゃるんです。7年間、このスタイルの結婚式を提供してきて感じることは、祝言という結婚式を選ばれた方はご家族思いの方が多いということ。『祖父母の体調がよくないから自宅で挙式を行いたい』というご希望も少なくありませんし、挙式の際も本当に温かく、ご家族のことを思い合うお気持ちにあふれているんですよね。そういう場に立ち会わせていただけることは本当に幸せなことです」
今後、こういったかたちの挙式がもっと広がっていってほしいと谷口さんは願う。「結婚式本来の意義を見つめ直すことで、新郎新婦はもちろん両家のご家族・ご親族、みなさんがお互いをさらに大切に思い合える、そんな気がしています」
(取材・文/松岡理絵)
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