料亭・割烹 梅廼家 若女将 菰田路子さん no.216
割烹ではリーズナブルな定食も提供。地域に愛されるお店でありたい
尼寺・道明寺と道明寺天満宮のすぐそばにあり、落ち着いた歴史ある佇まいを見せるのは1875(明治8)年に初代・菰田周造さんが創業した「梅廼家(うめのや)」。当初は旅館として各地から訪れる参拝者を迎え、その後、料亭としてお料理も提供するようになった。1983年には先代が「地域の人により気軽にお料理を楽しんでいただけたら」と割烹も新設。そして、現在は六代目店主の菰田幸雄さんが暖簾を守る。そんな「梅廼家」で若女将として奮闘中なのが、菰田路子さんだ。
「夫の父は、地域の人に愛されるお店でありたいと強く願い、600円の定食をはじめとしてとても親しみやすい価格帯のメニューを打ち出しました。仕入れ値も高騰するなかでこんなに安くて大丈夫かしらと心配になりましたが、地域の方々に美味しいものを召し上がっていただき、心癒やせる時間を梅廼家でお過ごしいただけたらという思いを私たちも引き継いでいきたいと考えています」
路子さんは2010年に結婚し、梅廼家の一員となった。しきたりについて特に強く言われたことはなかったというが、「家族や従業員のみなさんの日々の姿を見ながら学ばせてもらっています。板場や仲居のみなさんをはじめ、ここはチームワークがあってこその職場なのですが、本当にみなさんから学ぶことばかり」と路子さん。
結婚前はケーキ店で働いていた。「振り返ると、高校生時代のアルバイトを含めて、ずっと接客業。いずれはカフェを開きたくてカフェの学校にも通っていました。お客さまとコミュニケーションを取るのが得意なわけではないのですが、好きなんです。縁あって結婚し、そして、ずっと関心のあった〝食〟と〝接客業〟のどちらにも携わっていけることとなり、緊張する気持ちもありましたが、それ以上にとてもワクワクしました」
料亭や割烹という〝和〟の世界にも、触れれば触れるほど引き込まれていったという。また、梅廼家があるこの道明寺エリアは、歴史が深く、今なお地域のつながりが強い地域。「大勢の方の思いがつながれて、今があるように感じています。それはここに暮らすようになって、出会う方お一人お一人が教えてくださいました。結婚当初、父から『一人ひとりが梅廼家の鎖の一部であり、この鎖をつないでいってほしい』という話をされたのですが、最初はピンとこなかったんです。でも今は、その意味が少しずつ分かるようになってきました」
育児しながら徐々に現場復帰。一人ひとりが人をつなぐ鎖の一部
今は1歳と4歳のふたりの子どもの育児をしながら、現場にも徐々に復帰。「産休中は現場から離れることになるので、どうしても孤独感を感じることがありました。でもスタッフの方たちが温かい声をかけてくれたり、スーパーに行けば地域の方々が『子どもは宝だねえ』と気にかけてくださったり。道明寺は本当に子育てしやすい地域だと感じています」
路子さんは堺市美原区で生まれ、大阪狭山市で育った。「地域の中で何回か転校もしましたので、ここが故郷と思える場所がなかったんです。でも今はここ道明寺が私にとって、そういう場所になりました。どこか旅行へ行って、道明寺に戻ってくると、あ、落ち着く……って感じるんですよ(笑)」
この仕事の喜びはやはり人との出会いだという。「梅廼家でお料理を召し上がってくださったお客さまが、目の前で笑顔になるという瞬間に立ち会えることが大きな喜びです。子育て中で完全復帰はできていませんが、時折、現場に出させていただくと本当に大きなパワーをもらえて、私はやはりこの仕事が好きなんだと実感するんです」
また、路子さんの提案で取り組み始めたことの一つは、イベントへの参加だ。藤井寺市の地域イベント「ハレマチビヨリ」ほか、さまざまなイベントにも機会があれば「梅廼家」として出店している。「まだまだ周知ができていない部分があるので、梅廼家の情報発信に取り組みたいと思っています。また、イベントを通じて、地域の他の店舗さんと知り合えたり、コラボができたりすることも楽しいですね」
そして、次の挙げるのが「和食文化」の継承と発信だ。「地域の食材を使ったお料理を考案したり、伝統ある日本料理の継承のために活動したりと、食という原点を大切にしていきたいと思っています」
さらに、これから挑戦してみたいことはたくさんあると話す。「このまちが本当に好きなので、藤井寺や道明寺に来てくださった方がより楽しく過ごすことができるように、地域の魅力をしっかり発信していきたい。それが道明寺天満宮さんと道明寺さんの前でお店をさせていただいている私たちの使命の一つかな、と思うんです」
料亭は、法事やお祝いの場など、人生の節目に使われることが多い。「私たちはあくまで裏方。お客さまがここを選んでくださった目的に対し、最善のプロデュースをすることが梅廼家の役割です。ですので、予約のお電話では日時と人数だけをお聞きするのではなく、どういう目的でどんなお時間をお過ごしになりたいのかを丁寧に伺い、どういったお料理やしつらえ、進行が最善かを一緒に考えさせていただいています。予約電話を受けた瞬間から接客が始まるんです」
その当日、「美味しかった」「梅廼家さんに来てよかった」という声を聞けた時、「喜んでいただけてよかったと、ホッとします。一生に一度の時間にこの梅廼家を使っていただけることに従業員一同が責任を感じ、全力で取り組んでいます。お客さまが当店を選んでくださること、おもてなし精神にあふれた従業員のみなさんと一緒に働けること、私にとっては、あらゆることに感謝する毎日なんです」
(取材・文 松岡理絵)
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