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「ラコリーヌ」園主 橘 伸利子さん no.218

今月の人
自然栽培のぶどう園「ラコリーヌ」を立ち上げ、5年。 デラウエアに加え、さまざまな品種を育てていきたい
「ラコリーヌ」園主
橘 伸利子(たちばな・のりこ)さん
大阪府豊中市出身。太子町在住。趣味はジョギングと水泳。過去に5大陸40カ国を旅した経験を持つ。 https://naturalgrapes.jimdo.com/
橘 伸利子(たちばな・のりこ)さん

無肥料・無農薬・無除草剤
先輩農家さんたちの応援が心強い

 

 ある初秋の夜、大阪市内でワインとチーズのイベントが開かれた。出されたワインは、南河内郡太子町で採れたデラウエアから作られたものだ。体にスーッと馴染んでいくようなやさしい味わいながら、ぶどうの旨みもしっかりと感じられる。じつはこのワイン、酸化防止剤無添加。なおかつ原料のデラウエアも、自家農園で無肥料・無農薬なうえ、除草剤も使わずに育てられた自然栽培で育ったぶどうだという。だからこその、やさしい味わいなのだ。

 そのぶどうを育てたのは、太子町にあるぶどう園「ラコリーヌ」を一人で切り盛りする橘伸利子さん。「無農薬で作っているぶどうを近隣のワイナリーにお願いしてワインにしていただいています。無農薬なので皮もそのままフィルターを通さずに醸造。白ワインですが、ほんのりピンク色をしたにごりワインになります」

 ちなみにこの日にいただいたのは2017年産と2018年産のぶどうで作ったワイン。残念ながら今年は毛虫が大発生、ぶどうが不作だったために2019年産ワインは作れない見込みだという。

 橘さんが太子町に畑を借りたのは2013年12月。それまではメガネを扱う商社で営業の仕事をしていた。それがどうしてぶどう農家へ?

「木村秋則さんの『奇跡のリンゴ』の映画を観て、本を読んで、大きな感銘を受けたんです。なんてすごいんだろうと」。木村さんといえば、不可能だと言われていた無農薬・無施肥でのリンゴ栽培に粘り強く取り組み続け、青森県で成功させた人だ。

 そんな木村さんのことを知り、ここ大阪で自然栽培の果物栽培に取り組みたいと考え始めた橘さんは、ぶどう栽培が盛んな太子町で「太子町ぶどう塾」に、住まいのある豊中市から通うことにした。1年間で約15回の講習を受け、ぶどう栽培の基礎を学んだ。また、岡山県にも通って自然栽培についての勉強を重ねた。

 そして会社も退職し、太子町へと移住。農家としての一歩を踏み出す。屋号は「丘陵」という意味の「ラコリーヌ」に決めた。「農家の道に入るとか、大きな岐路という感覚はとくになくて、自然にそういう道へ進んだという感じでしょうか。ぶどう塾に通ったことで、たくさんのぶどう農家の先輩方とつながりができ、いろいろなアドバイスをいただき、助けていただいています。無農薬で栽培することについても『いいやないか!』と応援してくださって、とても心強く感じているんです」

 

 

今、1ヘクタールの畑を管理
赤ちゃんも安心して来てもらえる

 

 

40カ国を2年9カ月をかけてバックパッカーとして旅した経験がある行動派。「一番印象深いのはアフリカのモザンビーク。美しい海の中、ジンベエザメにタッチして、マンタにも乗りました」。さらに、マラソンやトライアスロンにも挑戦するというバイタリティの持ち主でもある。

 ぶどう栽培を始めると、周囲の人からは「ワインは作らないの?」と聞かれることが増えた。以前、オーストラリアでワイナリーの手伝いをした経験もあり、「じゃあ、作ってみよう」と一念発起。近隣のワイナリーに協力してもらい、できあがったのが前述のワインだ。

 ぶどう栽培も6年目。畑で除草剤を使わない分、近隣の畑に比べると橘さんの畑では草が勢いよく伸びる。「最初は草をそんなに放置して大丈夫かと先輩方に心配されていたようなのですが、ある程度伸びてきたら刈るようにしているので、だいたいそのペースもわかっていただけるようになってきました(笑)」

 管理する畑は少しずつ増えて、合計で約1ヘクタールとなった。デラウエアのほか、各種野菜、桃、ブルーベリー、プルーン、イチジク、サクランボ、アーモンド……と、試行錯誤を重ねながら今やさまざまな作物を育てている。もちろん、無肥料、無農薬、無除草剤というのは共通だ。

「安全なものを食べていただきたいというのはもちろんですけど、農薬は使う人にとっても大きな健康被害を受ける可能性があるものです。農薬を使わないことで、私も自分自身に健康被害がなく、元気に農業に取り組むことができています。もちろん、その分、収穫量は少なくなってしまいますが、無農薬であることで種や皮も安心して使うことができるので、皮を乾燥させてぶどう茶を作ったりもしています」

 夏の収穫シーズンには「ぶどう狩り」も行っていて、子どもたちも大勢やって来る。自分で収穫をしてもらい、摘み取ったぶどうの房をその場で冷やして食べてもらう。「畑でぶどうが実をつけている様子を実際に見てもらえること、その場でそのまま安心して食べてもらえること、そしてその子どもたちのうれしそうな表情を見られることが大きな喜びです。出荷するだけなら、この笑顔は見られませんから。それに、出荷するとなると、決められた形状以外のものは市場では不必要とされてしまいます。でも畑ではどんな形であれ、元気なぶどうは喜んで食べていただける。作り手として、それはとてもうれしいこと。今後はベリーAやシャインマスカットにも挑戦していきたい」

 また、畑にヨモギが生えていることも友人が発見してくれ、無農薬のヨモギは喜んでもらえるからと、ヨモギの収穫体験のイベントを行ったところ大好評だったという。「農薬をまいていない畑なので、肌が敏感な赤ちゃんも安心して来てもらうことができます。それもとてもうれしいですね」

 橘さんの畑ではボランティアさんを随時募集中だ。橘さんの畑を実際に見てみたいという人は、ぜひお手伝いに行ってみてほしい。また、休日には大阪で開かれるマルシェにも積極的に出店。農作物のほか、自然栽培ワインやぶどう茶、よもぎ茶などが並び、食の安心・安全を、自然体で伝えてくれる。

(ライター  松岡理絵)

 

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