四天王寺大学 経営学部 経営学科准教授 天野了一さんさん no.222
地域を盛り上げる活動に自ら参加
団体職員から大学教員へ転身
南河内でも各所で行われている〝地域活性化〟の取り組み。そして、その界隈の「この人あり」と言われているのが、四天王寺大学経営学部経営学科・准教授の天野了一さん。トレードマークとなったつなぎ服(ジャンプスーツ)に身を包み、フットワーク軽く東奔西走する日々だ。
「いえいえ、ただの、どこにでも出てくる変なオッサンなんです」とにこやかに謙遜するが、南河内エリアだけを見ても「まなリンク協議会」「ふじいでら創業スクール」「羽曳野ブランド認定委員会」ほか、かかわる事業は数知れず。
「いろんな場に出向くのが好きなんです。おもしろいことが好きというか」というその好奇心の礎は、大好きだった祖父が遺した「わからんもんがあったら、絶対に食うてみるねんで」という言葉。小学生だったあまやん少年の心に、「新しいことに積極的に挑戦する」「変わったものや変なものにはできるだけ首を突っ込む」という思いが芽生えた。
高校三年生の時に米国南西部のニューメキシコ州へ留学する。「面白そうだったので、英語圏ではなくスペイン語圏に留学したかったんです。ニューメキシコ州は、メキシコと隣接する州で、スペイン、メキシコやネィティブ・アメリカンの文化色の濃い地域なんです」
そのニューメキシコ州で、現在の活動とも深く結びつく現地のトウガラシ〝ビッグ・ジム〟と出合う。「トウガラシは現地のソウルフード。収穫後は1年分のトウガラシを専用の冷凍庫に入れて保存するんです。そして一年中、お料理にたっぷりと使う。最初は出てくるお料理の強烈な辛さに衝撃を受けたのですが、留学が終わる頃にはトウガラシがないと困る体質になっていました(笑)」
帰国後は苦手な算数を避けるため法学部へ進学。世界を股にかけて活躍するビジネスマンにあこがれて、国際交流のサークルに入り、世界の学生たちと交流を深めた。卒業時期はまだまだバブルの真っただ中。自動車、政府系金融、情報通信、電気機器などの企業から内定ももらったが、「考えた末、祖父の遺言を思い出し、一番何をしているのかよくわからなかった、公益財団法人の経済団体に就職することにした。そこで、関西経済活性化のための各種プロジェクトの企画や推進、来日した海外要人のサポート、財界要人の海外訪問団のスタッフなどを担当、世界30カ国以上に出張するなど企業向けの改廃ツアー企画などを担当。貴重な経験をさせてもらいましたね」
世界と関西をつなぐだけでなく、「歴史街道計画」の立ち上げや、関西文化学術研究都市での産学連携にも携わった。学研都市で、ベンチャー企業の育成、インキュベートや、企業のマッチング・コーディネートに携わる中で、「自分発のビジネスを何かしてみたい」という思いが湧いてきた。
「1995年頃、ベトナムが著しい成長をしていた時代なんですね。ベトナムでお土産に買ってきた雑貨がとても喜ばれたので、ネットで販売してみようとコンテナいっぱいに雑貨を買い付け、自力でWEBサイトを作って販売。ところが、さっぱり売れず、家中が在庫の山に。(笑)。雑貨は実際に見て触ったらほしくなるけれど、WEBでは魅力が伝わりにくいんですね。これは、マーケティングをしっかり勉強しないといけないなと反省しました」
仕事でためたマイレージで台湾に旅行した際に現地の占い師から「あなたは商売は向いてない。もっと勉強して多くの人を導くような立場を目指すべきであり、今はもっと勉強しなさい」と言われてしまう。そんな時、母校の大学院にビジネススクールが創設されることになり、「これは勉強し直せということだと思って、速攻入学しました」
仕事を続けながら、起業やビジネスについて学ぶ日々。これまでの経験を生かして講師として教壇に立つことも増えた。「教壇に立つことも増え、様々な経験を生かして、地域活性化や起業について、若い人たちに教えていくことが自分の役割なのではと考えるようになっていた。そして、2012年から、南河内の四天王寺大学に赴任し、大学教員としての仕事が始まった。
能勢で取り組むトウガラシ栽培
みんなの人生を楽しくしたい
「南河内のことは、最初はPLの花火のことぐらいしか知らなかったんです……」。しかし、「現場に出る」「おもしろいことには積極的にかかわる」という姿勢はずっと健在だった。前述の藤井寺・まなリンク協議会の活動を始め、まちづくり活動や産学連携事業にも積極的に参加。「自分からいろいろなところへ飛び込んでいきましたね(笑)。その結果、はじめて知ったことや、おもしろい発見があり、お友達もいっぱいできました。今では、ここ南河内が第二の地元となり、また一番の活動のフィールドになっています」
大学では、地域活性化演習、起業研究、中小企業論、アントレプレナー論などの授業を担当。授業は教室内だけでは終わらない。受講する学生たちにも積極的に地域へと出ていかせる。「ネットで検索しただけでわかったつもりになっている学生が多いのですが、『行っても死なへん』と、必ず現場に行き、やってみるようにと背中を押しています。あの古墳の目の前に●●があるなんて、行かなければわからないことは沢山ありますからね。17年からは大阪府・能勢町の農家さんと一緒に第二の故郷でもあるニューメキシコの特産品、ビッグ・ジム唐辛子の事業化と普及活動、地域ブランド創出に取り組んでいます」
2年前に大学を卒業した川本藍さんは「先生は積極的に学生と地域につながりを作ってくれました。パン屋さんや酒造、雑貨店……いろいろなお店に出向き、動画を撮影し、編集してyoutubeにアップするなど、とにかく実践が多いんです。先生のおかげで、まちの楽しさを知り、今では地域メディアの仕事にかかわっています」
そんな教え子の声を聞き、「「授業をきっかけに、地域に興味をもち、自分の仕事や将来につなげてくれたら、活動をやってきてよかったと嬉しいですね」と少し照れくさそうな天野さん。
いろいろな地域を見てきた天野さんに南河内の魅力を尋ねてみた。「人と人が近いことでしょうか。話しかけたら、必ず返してくれる。そういう地域って、ありそうであまりないですからね」。続いて、課題も聞いてみると……。「魅力がいっぱいあるのに、見せる、楽しむための仕掛けが足りていないこと。訪れて、住んで楽しい地域にしていくために、若者たちがここで起業したり、活躍するための知恵を産官学で出し合い、一緒に進めていきたいですね」
いつかは、大学教員やコーディネーターの仕事だけに終わらず、いずれは起業家としてビジネスの世界に戻ることも視野にあるという。「海外に移住して、誰もやらないような新しいベンチャーを興したい。暗い世相ですから、面白いことを追求して、みんなの人生を楽しくしたいんですよ」
柔らかく穏やかな物腰で、ツナギ姿に身を包み、フットワーク軽く広い地域を駆け回る天野さん。楽しく巻き込まれていく学生が多いというのにも納得だ。
(ライター 松岡理絵)
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