PIZZERIAバイシクルステップ 代表 佐藤教行さん no.224
国内外をツーリング
風を感じ、風景を楽しむ喜び
近鉄南大阪線「川西」駅から徒歩2分、国道170号と309号が交わる北西角に、スポーツバイク専門店「バイシクルステップ」がある。黒と木目が凛とした印象の外観、そしてガラス越しにロードバイクやクロスバイク、マウンテンバイクが整然と並んでいるのが見える。
お店に入ると、「こんにちは」と明るく爽やかに迎えてくれたのは代表の佐藤教行さん。農業経験やスポーツバイク店勤務を経て、このショップをオープンさせたのは2018年9月のこと。以来、南河内地域を中心にした幅広い世代のお客さんに、自転車の魅力を伝え続けている。
佐藤さんと自転車との出会いは、大学入学時へと遡る。「いろいろなクラブやサークルを見学する中で、サイクリング部でスポーツバイクに初めて試乗させてもらったんですが、1回ペダルを踏みこむだけでこんなにラクに進むなんて!と自転車の持つ力に衝撃を受けたんです」
そうして、サイクリング部に入部すると、ツーリングやアウトドア、ロードレースに時間と情熱を注ぐ日々が始まった。長期の休みには全国各地を自転車で旅し、時には飛行機に愛車を乗せて海外へも走りに出かけた。「アルバイトして貯めたお金で、いろんなところへ行きましたね。イタリアからポルトガルまでを1ヵ月かけて自転車で旅した時は、土地土地の美しい風景に感動しながらペダルを漕ぎました。当たり前ですが、僕にとってはすべての道が初めて走る道。当時はまだスマホがなかったので、まずは現地で地図を探すんです。そして、調理用のガスと食材を現地のスーパーで買う。自転車で風を感じる楽しみに加え、そんなふうに僕なりに地域の食文化を満喫できたのもいい思い出です」
同じく、走りに出かけたニュージーランドでは、ファミリーでツーリングをする光景をよく目にしたという。「たとえば、ペースの早いお父さんとお兄さんが先に走って、目的地でテントを張ったり料理の準備をして、ゆっくり走ってくるお母さんや妹さんを待っている。そうやってファミリーで自転車とアウトドアを楽しんでいるんです。僕もいつか家族で自転車に乗って、あんなふうに休日を過ごしてみたいなあと、それが夢の一つになりました」
そんな佐藤さんだが、大学では農業を専攻していたこともあり、卒業後は奈良や鳥取で農業に従事した。「白ネギやブロッコリー、原木シイタケなんかも作っていました。お米を作っていたこともあります」
とはいえ、自転車にかかわり続けたいという気持ちはずっと持っていた。そして、4年ほど農業にたずさわったのち、大阪の自転車店を経て岡山県のスポーツバイク専門店で働くことに。「そのショップでは販売だけでなく、お客さんと一緒に走りに行く機会も多かったんです。乗る楽しさを伝える仕事でもあること、そして楽しむためには安全面についても真剣に考えていく必要があることなど、多くのことを考える機会をいただき、大きな遣り甲斐とともに働かせてもらっていました」
そこでは店長も務め、5年ほど勤務。そして実家のある富田林にUターンするのに合わせ、独立を考え始めた。「迷う気持ちがなかったわけではないです。自転車のお店というのは季節によって忙しさに波もありますし、つねに最新情報を取り入れることも必要です。そして何より自分のスキルを高めないといけません。でも、地元の富田林でショップを開く以上、自転車の魅力を大いに伝えられる場所をつくろうと、徐々に前向きな気持ちが湧いてきました」
購入者の9割は初心者!
無料講習会やイベントでサポート
富田林に場所が見つかると、いよいよお店作りが始まった。「来てくださる人が居心地よく過ごせる、おしゃれなお店にしようと思いました。ゆったりとした空間にして、カフェもできるカウンターも作りました」
そうしてできた空間は訪れること自体が楽しくなるほど、シンプルでおしゃれ。店内に並ぶスポーツバイクは、アメリカの「トレック」ブランドで、納品されたものは一度すべて分解し、検品も兼ねて佐藤さんが手作業で丁寧に組み立て直すという。そして、ここで購入した自転車は、生涯無料で点検してくれるというのも心強い。
ここにやって来るお客さんは、子どもから中高年まで年齢層も幅広い。経験者が多いのかと思いきや……、「いえいえ、9割は初心者ですよ。掃除の仕方やパンクの直し方、段差やカーブの走り方……など、いろいろな講習会も無料で行っています。初めてスポーツバイクに触れるという方も安心してお越しいただきたいですし、気になることがあれば、なんでも聞いていただけたら」
さらになんとキッズチームもあり、子どもたちと一緒に走りにいくこともあるのだとか。「南河内はサイクリングロードだけでなく、山もあります。河内長野や千早赤阪村まで走りに行ったり、変速のタイミングや事故を起こさないように車との付き合い方やマナーを一緒に勉強したり。いろんなイベントを開催しているので、今はとても忙しいですね(笑)。でも、本当に楽しい。今は一人で自由に走りに行く時間はあまり取れないのですが、いつかお店が軌道に乗り、従業員が増えたら個人的にまたいろいろなところへ走りに行きたいですね」
そして、いつかツーリングと農業を組み合わせられたら……とも考えている。「いつか山を買いたいんですよね(笑)。畑まで自転車で行って、野菜や果樹のお世話をして、採れた野菜を調理してキャンプをする……というような。屋外のそういう経験というのは、生きていく力を養うことにもつながると思うんです。子どもの教育と言うとおこがましいですけど、自転車や農業を組み合わせて、そんなことができたらいいなと考えています」
また、災害時にも自転車は力を発揮する。「東日本大震災の時、車が使えない場所でマウンテンバイクががれきの上を走り、物資を運ぶのに使われていたりしました。実際、マウンテンバイクなら、ガソリンがなくても木が倒れていても、走ることができます。自転車は災害時にも役に立つということも発信していきたい。お店で防災訓練を企画したり、地域の消防訓練に参加させてもらう、ということも今後取り組みたいことの一つです」
店内にはアウトドアブランド「モンベル」との提携によって、非常食やアウトドア用の調理器具が揃い、キャンプ時だけでなく災害時でも役立つことをスタッフが説明してくれる。
「このショップの役割は、自転車を通じて〝幸せを感じてもらえるようなきっかけや場〟を提供していくこと、なんです」。佐藤さんはその言葉に力を込めた。
(ライター 松岡理絵)
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