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オステリア ベッカフィーコ 店主 藤 井 学さん no.237

今月の人
生産者とつながる、地産地消のイタリア料理店。いつかは南河内にオーベルジュを創りたい
オステリア ベッカフィーコ 店主
藤 井 学さん
1983年、奈良県生まれ。美術系の専門学校を卒業後、広告制作会社に勤務。その後、料理の道へ。2020年5月に「オステリア ベッカフィーコ」をオープン。絵やデザインが得意。子どもと遊び、家族と過ごすのが癒やしの時間。
藤 井   学さん

葛井寺への参詣道にある人気店
地域の人に支えられて1周年

 

 近鉄「藤井寺」駅から西国第五番札所「葛井寺」へと続く参詣道も兼ねた藤井寺一番街商店街。さまざまな商店が連なるその一角に、この5月に1周年を迎えるイタリア料理店「オステリア ベッカフィーコ」がある。


「去年のオープン時からずっとコロナ禍にありましたが、そんな中でも、地域の方や生産者さん、取引先の方々に励ましていただいて1周年を迎えることができました。とにかく今は、感謝の気持ちしかありません」


 はにかみながらそう謙虚に話すのは、シェフで店長の藤井学さん。子どもの頃から絵を描くのが好きで、高校卒業後は美術系の専門学校に進学。じつは、お店のロゴデザインも自身で描きおこしたものだ。


 卒業後は広告制作会社に就職し、おもに食に関係するクライアントを担当した。「もともとデザインに関心があったこともあり、繊細な盛り付けや彩り豊かな食材の使い方など、和食の世界の美しさに魅せられていきました。同時に、料理の奥深さに触れ、いつか料理の世界に進みたいという思いも生まれたんです。また、大手お弁当チェーンの販売促進を担当したのですが、食はやはり、作り手の思いの部分が大きい。食に関わり、食の作り手になりたい、そんな気持ちが膨らんでいきました」


 その後、和食店を展開する企業へ転職。和食店の店長として赴任したのが藤井寺だった。「それが私と南河内との最初のご縁でした。知れば知るほど南河内の農産物の豊かさに驚きましたし、さらに人も温かくて。とても居心地よく感じました」


 藤井寺で2年を過ごしたのち、新店オープンに伴って奈良県へと転勤することに。しかし、その後も藤井寺でできた人とのつながりを大切にし、さらには地域のボランティア活動にも継続して参加し続けるなど、藤井寺とのかかわりは意識的に持ち続けたという。「すごく藤井寺に愛着を感じてしまって……。ですから、いつか藤井寺に戻ろう、そしてその時は成長した次のステップで戻ってこよう、そう決めていました」


 藤井寺に戻る時は自分のお店をオープンさせたい――。そんな明確な目標を持ち、仕事を終えたあとの時間を使って、藤井さんは料理修業に励むことにした。「ご縁のあったとあるシェフが、僕に料理を教えてくださることになったんです。あるホテルの総料理長をされていた方でとても尊敬しているシェフ。私は自分の仕事が終わってからその方のお店に駆け付け、野菜を洗うところから始まって、料理について多くを学ばせていただきました」

 

河内鴨に河内ワイン、卵、野菜……
南河内の食材を堪能して

 

 河内の新鮮な食材をできるだけそのまま提供したかったので、シンプルな調理法を活かせるイタリアンレストランにしようと思いました。地産地消を大切にし、郷土料理に愛情を注ぐというイタリア料理の特徴も、私自身が目指したいものなので」


 藤井寺一番街商店街に物件を見つけ、いよいよオープンへ向けての準備を始めたのが2020年の初頭。「古市古墳群が世界文化遺産に登録され、地元の方だけでなく世界からたくさんお客さまがやって来られる場所。また、この商店街は駅からも近く、人通りも多くて、いろいろな方と巡り合える場所かなと思いました」


 店名の「ベッカフィーコ」とは、イタリア語で「イチジクをついばむ小鳥」という意味だという。どうしてその名を付けたのだろうか。「私は奈良県の出身で、子どもの頃から祖父母の畑の手伝いをしていたんです。畑にいると、鳥たちが野菜を食べに来るんですね。もちろん、生産者としては野菜を鳥に食べられてしまったら困るのですが(笑)、豊かな土壌で育った野菜を鳥たちがついばみにやって来る光景はとても平和で、食の循環を感じさせるもので、素敵だなあと思っていたんです。そして、つねに生産者の方々の気持ちを知っているお店でありたい。生産者の方々と一緒に上質な食を提供していきたい、そんな思いも込めています」


 店内の内装もそんなイメージを伝えて、仕上げてもらった。木々の温もりや開放感、そして、壁に描かれた小鳥のイラストやステンドグラスが優しい雰囲気を醸し出す。


 メニューには、「大阪ウメビーフトリッパトマト煮込み」「KAWABATAファーム 水牛モッツァレラのカプレーゼ」「河内鴨の燻製と季節のフルーツサラダ添え」「なにわポークのコトレッタ ケッカソース」……など、地域の食材が使われた品々がにぎやかに並ぶ。できるかぎり南河内の食材を使いたいと、藤井さん自身が地域の生産者のところへと訪れ、思いを語り、仕入れているという。「南河内にはワイナリーも多く、これもイタリアと共通する特徴ですね。ワインに合う料理をワイナリーの方と相談させていただきながら、作ったりもしています」


 これからももっと地域の食材に目を向けていきたいと語る藤井さん。ふるさと納税の返礼品の開発など、生産者と多様な形でコラボしていきたいと考えている。さらに、コロナ後を見据え、「世界から観光客の方々がたくさん訪れる場所ですから、世界から来られた方々に南河内の食材を使ったレベルの高い料理を提供できる店を目指したい。世界からも注目していただける南河内のオーベルジュのような、そんな施設を創れたら……という大きな夢ももっています」


 また、環境問題にも敏感なレストランでありたいと、サステナブル(持続可能)な取り組みにも力を注ぐ。「コロナ禍で販路が減少し、行き場を失った野菜が南河内でもたくさんあると聞きました。また、丁寧に育てられたのに形状が規格外という理由で流通に乗らない野菜もありますが、味も栄養価も変わりません。それらはそのままだと廃棄されてしまうので、そういった野菜を買い取らせていただき、サラダなどに使っています。また、店内で使用する備品などもできるかぎり使い捨てのものは置かないようにしたい。お客さまや社会とのかかわりを大切にしていくお店でありたいと思っています」

(ライター  松岡理絵)

 

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